平成十七年 神無月 ■2005/10/01 土 今月最初の電話、というより、その電話で始まった今月。 10月といえばもう各地から初雪の便りが届く月。 この地では何時頃、それが訪れるのだろう。 引っ越してからちょうど丸半年が過ぎた。 今年は雪融けを見なかった。渡ってきたばかりのこの地は桜の季節から暑く、その後は引き続き、人生で最も長く暑い夏。そして、続く残暑に境目もわからず、いつの間にか秋。そんな感じで。 初雪だけは見逃さないようにしないと。 ■2005/10/06 木 殆ど各月定期便になっている出張から帰宅。平地にしばらくいてこちらに戻ってくると、やっぱり高度差だろうか。夕暮れはこちらの方がかなり涼しいと感じる。 送信主は親父の名だが、文体からすると母からの携帯メールが届く。内容を要約すると >今年初の鮭釣りで銀毛の鮭(メス)のすごく大きいの釣った。 >携帯で写真送ろうと思ったけど、入りきらなかったわ。がはは。 …というもの。くそう、いいなぁ。 親子してしばらく鮭釣りはやってなかったのだけど、自分がしばらくできなくなるかも、と思って、昨年は親父を誘って何回か鮭釣りへ行った。調子も良かったので、それが親父の鮭釣り熱に再び火を点けてしまったのかも知れない。 そういえば、去年の鮭釣りの道具。車に入れっぱなしだ。 ■2005/10/07 金 また親からの携帯メール。 >今朝も釣った。鼻曲がり気味だったのでオスだと思ったけれど、さばいたらメスだったわ。 銀毛(ギンケ。つまり銀ピカの状態。それを過ぎ鼻曲がりと婚姻色が現れた状態は「ブナケ」と呼ばれる。)の鮭の雄雌の見分け方は昨年教えただろうに。でも、自分も忘れてしまいそうなので、銀毛の鮭の雄雌見分け方のポイントをおさらい。 1 目が鼻に近い(メジカな状態)のは雌 2 尾びれの縁の中央が切れ込んでいるのは雄。メスは切れ込みが無く弓状。 3 油ヒレの大きいのは雄 雌だけ持って帰る、という人の中に時折、釣ったら雄も雌も取り合えずシメて腹を裂いて、雄なら捨てていく、という、ロケット花火の刑(※昨年秋の日記参照)にしてやりたい人がいる。でも別に殺すことが趣味ではないだろうから、外見での見分け方を知っていれば、殺さずにリリースするという選択もできるだろう、と、いっつも思う。 …だろう、というのは、釣りである以上、針の掛かり所が悪く眼を貫いたりしてどうしても死んでしまう場合があるから。 ■2005/10/12 水 先日、富士山が初冠雪。 でもまだ薄化粧のようで、今朝にはもう殆ど融けてしまっていた。 そういえば。 北海道にいた頃、富士山という山はこういうものだと思っていた。 つまり、青い山肌で頂には常に雪が積っているのだ、と。でも、実際に近くで見てみると、夏には雪も融けているし、山肌も上の方は草木も生えてないので青いというより赤い。つまり、こうだった。 と、このように。これまで写真やら映像やらで見聞きしてきただけのものに対して抱いていたイメージが、実際にそれを目にすることによって覆される。ちょっと大げさな言い方だけど、そういうことを、こちらに来てからは結構経験している。で、それは「思っていたほど…」と「思っていたより!」の両方で、まだまだ些細なことから大きなことから新鮮なことが多い日常。それが素直に楽しい。 ■2005/10/13 木 休みを挟んでずっと雨が続いた天気も、ここ2日で何とか持ち直した。けれど涼しさもぐんと増して、「ひと雨ごとに秋が深まる」という言葉に頷いていた。でも今朝は今年一番ではないかと思うほどの完全無欠な快晴で、日中は暑さもぶり返し、久々に半袖生活。ただ、予報では明日からまた雨模様になるという。よくわからない天気。 通勤経路にある桜の木を見ていた。葉の無い枝が多い。落葉したのではなく、春先から夏にかけて毛虫に喰われたのだ。そんなひと足早く晩秋を迎えたような桜の枝々を見ながら歩いていて、ふと、葉の付いていた辺りの付け根の部分にちょんちょんと芽が出ていることに気付いた。ああ、ひょっとしたらこれが花芽なのかな。 桜は、春先に花を咲かせるための力を、一体いつの間に溜め込んでいるのだろう? 以前、そんな疑問を抱いたことがある。雪融けから慌てて花芽を育むのか、前年のうちに花芽をつけて冬を越すのか、それとも、夏の間に溜め込んだエネルギーを使って冬の間に花を咲かせる準備をしているのか。その疑問がようやく解けた。まさか花芽のまま冬を越すとは思っていなかったので、ちょっと意外だった。 花芽(だと思う。)を摘んでみると、さすがにまだギュッと固く締まっている。今の時点でそこそこの大きさだから、秋の間に咲こうと思えば咲けそうな気もするけれど、そうはしないで春まで待つ、というのが不思議な感じ。ひとつ疑問が解けてまたひとつ疑問が生まれる。どうしてこの時点で花芽がついているのに、わざわざ一冬越して春に花を咲かせるのだろう? そういえばこの辺りの桜。夏早々に多くの葉を毛虫に喰われてしまっていたけれど、来春の開花には影響ないのだろうか。 ■2005/10/16 日 これまでの住居は広さだけはあったので、収納スペースについて考えたことは無かった。でも、こちらに来てからは学生時代以来のワンルーム生活である。なので少し立体的な収納を考えないとなぁ、と思っていたのだけど、ついつい放ったらかしで。 学生時代以来使っている机があるのだけど、机として実際に使われているスペースといえばパソコンのキーボードとマウスを動かすスペースくらい。つまり机の前半分だけで、後ろ半分は何かとごちゃごちゃ色々なものが置かれているに過ぎない。この後ろ半分のスペースに、薄い棚を置いてみたらどうだろう。 雨の休日に、ふとそう思い立って机まわりを改装することにした。机の幅を計ってから、そのスペースに置けるような棚を探しにホームセンターへ行く。で、二つ並べて置いてちょうど机の幅にぴったりなカラーボックスとCD・文庫本サイズの本棚を買ってくる。 で、それまで机の上に雑然と置かれていた様々なもの…、電話機、CDの類、灰皿、何冊かの本、灰皿、さるぼぼのキーホルダ、貝殻が入った瓶、ジッポーライターのオイルなどなどを棚に収納して、机まわり(だけ)すっきり整頓。 ■2005/10/15 月 雨、雨、雨、そして今日も雨。月が満ちていることにも気付かないくらい雨続き。 机まわりの改装により、机の上に本を入れるスペースができた。軽い合板製の棚だから下の段に本を入れておくと重石がわりにもなりそう。と思って本を何冊か引越ししようとと思ったのだけど、考えてみたら多くの本を、引越しの際に処分してきたのだった。 その処分の波を生き抜いてきた数冊の本を、新しい棚に収めてみる。 そのジャンルの取り留めの無さがまたおかしいので、いくつか覚え書き。 岩波文庫 アイヌ神謡集 知里幸恵 (同郷) 岩波書店 星の王子さま サンテグジュペリ (大人になってから読んだ) 岩波書店 モモ ミヒャエルエンデ (上とこれは名作だな) 小学館ライブラリー アイヌ、神々と生きる人々 藤村久和 (学生時代の参考書) 原生林 カウンセリング熊 アランアーキン (ライオンであるレミング) 中公新書 ゾウの時間 ネズミの時間 本川達雄 (ゾウもネズミも同じ時間を生きている) あと、母の著作が2冊(1冊は自費出版)と、親父とその兄弟が発行した家系史があるのだけど、まぁこれは個人的な話なので省く。 ■2005/10/16 火 雨、雨、雨、雨、また今日も雨で5日連続。台風も近づいているというけれど、こちらは大きな影響はなさそう。帰ってから買い物に出た時も雨だったけれど、夜中になってふと気が付くと止んでいた。真夜中のベランダに出る。まだ雲が覆っていたけれど、月明かりが雲を抜けているのだろう。真上の雲が仄かに明るい。ただ、月はもう上の階のベランダの影に隠れてしまっているみたい。月が本当に高くなった。 ■2005/10/20 木 久しぶりにからっと晴れる。山も久しぶりに姿を現した。長い間雲に覆われていると、その間にまた雪が積っているのではないかと気になる。でも、その姿は元のまま。ただ、今日はその右上あたりに月が出ていた。あれ、この景色をどこかで見たことがある…と思いながら歩いていたのだけど、途中で同じ職場の人が車で通りかかって「乗っていきませんか?」と声を掛けられて、そのままご一緒したので忘れてしまった。 そして今思い出した。WindowsXPか何かに標準で入っている壁紙。 その中に、そんな風景写真があったんじゃないかな。 ■2005/10/21 金 今週は特に忙しい…というわけでもなかったのだけど、自分の仕事についてテストというか検査というか監査のようなものを受けていたので、一週間ずっとあずましくなかった。ただし、結果そのものは上出来。今の分野の仕事は採用以来5年間やっていたので、4年のブランクがあるとはいえ、意外と自分なりにツボを押さえてできている。 夜に若手グループの宴会を近所でやった。帰り道、人の群れから遅れて空を見上げながらトロトロと歩く。空は雲に覆われて、まだ丸さのある月の位置が何となくわかるだけ。今夜は天気さえ良ければオリオン座流星群が現れるはずの日で、星空だったら宴会の後でどこか明かりの無い所まで走ろうと思っていたのに、残念。 ■2005/10/31 月 夕方、雷と共にザァッと雨が降り出す。振り出しと共に気温がぐんと下がる。雨を素肌で受け止めてみると、キンと冷たい雨粒。ふと、屋根に当たる雨音が変わる。きた。地面に当たる雨粒の中に、カチンと跳ね返る粒が混じりだす。あられのような、みぞれのような。とにかく、そういうものがこの地でも降り始めた。 つけっ放しのテレビで、年賀状が販売されるとかどうとか、というニュースが流れていたけれど、耳だけで聞いていた。 |